ITエンジニアの転職求人倍率は12.04倍(doda・2026年8月)。転職したい人1人に、12件以上の求人がある計算です。全職種の平均(2.86倍)の4倍を超えています。
人が足りないのは、IT企業だけではありません。DXを進める人材が不足していると答えた日本企業は8割を超えます(IPA「DX動向2025」)。工場やものづくりの現場を知っている人がITに移る道は、確実に広がっています。
とはいえ、「製造業出身だから、すぐIT職に転職できる」というほど甘くもありません。私自身、食品メーカーで品質管理を9年続けながら社内のDX推進に関わり、年収は800万円です。転職エージェントとの面談では、市場の評価は思ったより冷静でした。そして正直に言うと、DX系の仕事に移ると年収が下がりやすいことが、私にとっていちばんのネックです。
この記事では、その現実を踏まえたうえで、製造業からIT・DX職へ移るための現実的なルートと、年収がどうなるかを整理します。
📌 この記事でわかること
- 製造業出身者にIT・DX転職のチャンスがある理由(最新データ)
- 年収は上がるのか、下がるのか
- 現実的な4つのルートと、それぞれの向き不向き
- 30代・40代でも行けるか/職務経歴書の書き換え方
- 転職しない選択肢=社内でDX部署に移る道
なぜ今、製造業出身者にIT・DX転職のチャンスがあるのか
結論から言うと、IT人材が足りないうえに、「現場がわかるIT人材」はさらに足りないからです。

ITエンジニアの求人倍率は、化学・食品の専門職(1.78倍)の約7倍です。同じ「技術系」でも、求められ方がまったく違うことがわかります。
この背景には、2つの流れがあります。1つは、IT人材そのものの不足です。経済産業省は2019年の調査で、2030年にIT人材が最大で約79万人不足すると試算しています。もう1つは、製造業自体のDX化です。スマートファクトリー、生産データの活用、業務システムの刷新といった動きが各社で進んでいます。

純粋なITエンジニアは現場の事情を知らず、現場の人はITが苦手。その間をつなげる人は、どの会社でも欲しがられます。
実際、私が定期的に受けているJACリクルートメントの面談でも、担当者から「製造現場×DXの人材需要がいま非常に強い」と聞きました。DX関連の求人が増え続け、エージェントの社内にDX専門のチームができるほどだそうです。
出典:パーソルキャリア「doda転職求人倍率レポート(データ)」/IPA(情報処理推進機構)「DX動向2025」/経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年)
ただし「DX経験あり=すぐ転職」は甘い
ここは正直にお伝えします。製造業でデジタル化に関わった経験があっても、それだけでIT職にスムーズに移れるわけではありません。
私は本業で業務アプリの内製やAI活用といったDX推進に取り組み、社内表彰も受けています。これが転職市場での武器になると思っていました。しかし面談で言われたのは「DX実績だけだと弱い」。DX職への転職では、ITエンジニアやコンサル出身者と同じ土俵で比べられるからです。「ツールを使って業務を改善した経験」と「ITを職業としてきた経験」の間には、採用側から見ると壁があります。
需要が増えている今でも、この構図自体は変わっていません。だからこそ、どのルートから入るかと経験をどう伝えるかが大事になります。
年収は上がる?下がる?——業界と職種で分けて考える
結論は、「業界を変えると上がる余地がある。職種を変えると、最初は下がることがある」です。

業界の平均で見ると、毎月の給料は情報通信業のほうが製造業より約7.7万円高く、1年前からの伸びも情報通信業(+5.5%)が製造業(+4.4%)を上回っています。業界として見れば、ITは「報われやすい側」です。
ただし、これは業界全体の平均の話です。個人で見ると話は変わります。製造業で長く働き、すでに給料が高めの人ほど、IT職としては「経験の浅い人」として評価されるため、最初の年収が下がることがあります。
私がまさにそうです。面談では、食品業界の中では今の年収(800万円)は天井に近く、上げたいなら業界を変えるのが近道だと言われました。一方で、本当にやりたいDX系の仕事に移ると年収が下がりやすく、ここがいちばん悩ましいところです。逆に、品質管理の経験をそのまま活かす求人なら年収は上がりますが、転勤が前提になるものが多く、将来の子育てを考えると簡単には選べません。
つまり、年収が上がるか下がるかは「どのルートで、何を武器に移るか」で決まります。次の章の4つのルートは、この視点で読んでみてください。
出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026年7月分結果速報」(第1表・事業所規模5人以上・一般労働者の「きまって支給する給与」)
製造業出身者が評価される3つの強み
壁はありますが、製造業出身ならではの強みもあります。これを言葉にできるかどうかで、評価が変わります。
現場と業務を深く理解している
製造の工程、品質、在庫、生産管理といった「現場の言葉」がわかることは、製造業向けのITに関わるうえで大きな武器です。要件定義や現場への導入で、現場を知らないエンジニアには出せない価値を発揮できます。
データ・改善・標準化の素養がある
製造業では、データにもとづく改善や標準化が日常的に行われています。これはITやDXの仕事の土台と同じ考え方です。QC的なアプローチは、システム導入や業務設計でそのまま活きます。
業務ツールを実際に動かした経験
ノーコード・ローコードツールで現場の業務アプリを内製する動きが広がっています。こうしたツールで実際に業務を改善した経験は、「手を動かせる人」の証明になります。大きな開発でなくても、課題を見つけて形にした実績は評価されます。
製造業からの現実的な4つの転職ルート
結論として、狙い目は「難易度が低く、製造業の経験が活きる」①と②です。

① 社内SE・情報システム部門(難易度:低〜中)
仕事内容:社内システムの運用・改善、ITツールの導入、現場からの相談対応。メーカーの社内SEなら、生産管理や品質管理のシステムにも関わります。
向いている人:現場の困りごとを聞いて、ITで解決するのが好きな人。社内で業務アプリを作った経験がそのまま活きます。
年収の傾向:同じ業界内の移動なら、大きく下がりにくいルートです。
② 製造業向けITベンダー・SIer(難易度:中)
仕事内容:工場向けの生産管理システムやIoTの導入支援。顧客の現場に入って要件を聞き、システムに落とし込みます。
向いている人:「現場の言葉」と「システムの言葉」を通訳できる人。製造業の知識が即戦力として評価されます。
年収の傾向:業界がIT側に移るため、経験を積むほど上がる余地があります。
③ DXコンサル・業務改善職(難易度:中〜高)
仕事内容:企業のDX計画づくりや業務改革の支援。現場の課題を整理し、改善策を提案します。
向いている人:改善の経験に加えて、論理的に説明して人を動かすのが得意な人。資料作成や提案の力も問われます。
年収の傾向:高い年収が狙える一方で、選考のハードルも高めです。
④ Web系エンジニア(難易度:高)
仕事内容:Webサービスやアプリの開発。プログラミングが仕事の中心になります。
向いている人:年収が一時的に下がっても、技術を一から身につけたい人。製造業の経験は活きにくく、未経験に近い挑戦になります。
年収の傾向:最初は下がることが多いルートです。
いきなり④を目指すより、製造業の知識が「即戦力」として評価される①②から入るほうが、現実的で年収も落ちにくい入り方です。IT・エンジニア向けのエージェントの選び方は、以下にまとめています。
30代・40代でも行ける?
結論は、行けます。ただし年齢が上がるほど「経験を軸にした移り方」が前提になります。
リクルート社の転職決定者データ分析(2022年度)では、業種も職種も変える「異業種×異職種」の転職が全体の39.3%と、過去10年で最も高い水準でした。業界をまたぐ転職は、もはや例外ではありません。
ただし30代後半〜40代になると、企業が期待するのは「伸びしろ」より「即戦力」です。そのため、製造業の知識がそのまま評価される①社内SEや②製造業向けITのほうが、年齢の壁を越えやすくなります。チームをまとめた経験があれば、現場とIT部門の調整役として評価されることもあります。
転職を成功させる準備の3ステップ
ステップ1:実績を「課題・方法・結果」で言葉にする
「DX実績だけだと弱い」を補うのが、この言語化です。同じ実績でも、書き方ひとつで評価が変わります。

IT職の採用担当が見ているのは、「ツールを使った」ことではなく、課題を見つけ、要件を整理し、形にして、広げたというプロセスです。数字(削減した時間や割合)は、必ずセットで書きましょう。書き方の基本は以下が参考になります。
ステップ2:足りないスキルを補う
狙うルートによっては、基礎的なIT知識やプログラミングの学習が必要です。①②なら、ITパスポートや基本情報技術者試験で基礎知識があることを示すのも一つの手です。④を目指すなら、独学かスクールでの学習がほぼ前提になります。
ステップ3:エージェントで市場価値を測る
準備と並行して、転職するかどうかを決める前に市場価値を測っておきましょう。求人を眺めるだけでも、自分の経験がどのルートで評価されるかが見えてきます。市場の全体像をつかむなら総合型のリクルートエージェント、IT職の相場を詳しく知りたいならIT特化のGeekly、と併用するのが効率的です。
転職しないという選択肢:社内でDX部署に移る
見落とされがちですが、今の会社の中でDXの仕事に移るという道もあります。社内なら、現場の人脈と信頼をそのまま持っていけるうえ、年収も下がりません。
実は、私が今まさに模索しているのがこの道です。社外に出ると年収が下がりやすく、品質管理系で上げるなら転勤が前提になる。だからこそ、今の会社でDXのポジションを確立できないかを試しています。経験職種を活かしたまま、仕事の軸だけをずらす「軸ずらし」の考え方です。
社内で実績を積めば、それはそのまま次の転職での武器にもなります。「転職か、残るか」の二択で考えず、両方の可能性を残しておくのが、いちばん損をしない進め方だと考えています。
よくある質問
Q. 資格がないとIT職には転職できませんか?
必須ではありません。ただ、①社内SEや②製造業向けITを狙うなら、ITパスポートや基本情報技術者試験で基礎知識を示せると、未経験の不安を和らげる材料になります。
Q. プログラミングができないと無理ですか?
ルートによります。①②③は、プログラミングよりも「現場の課題を整理して形にする力」が重視されることが多い仕事です。④のWeb系エンジニアを目指す場合は、学習が前提になります。
Q. 「未経験歓迎」のIT求人は信じていいですか?
条件をよく確認してください。未経験歓迎の求人の中には、年収が大きく下がるものや、研修後の配属先がわからないものもあります。気になる求人は、エージェントに実態を聞くのが確実です。
まとめ|私なら「現場が活きるルート」から入る
IT人材が足りない今、製造業でデジタルに関わってきた経験は確かに追い風です。ただし「DX経験あり」を過信せず、年収がどうなるかまで見て動くことが大事です。
もし私が本気でIT・DX職を目指すなら、いきなりWeb系エンジニアに挑むのではなく、まずは社内SEや製造業向けITなど「製造業の知識が即戦力になるルート」から入ります。同時に、今の会社でDXのポジションを作れないかも並行して試します。強みを活かしながら、年収を落とさずに済む入り方だからです。
- ITエンジニアの求人倍率は12倍。「現場がわかるIT人材」はさらに希少
- 業界を変えると年収が上がる余地はある。ただし職種を変えると最初は下がることも
- 狙い目は社内SE・製造業向けIT。30代・40代でも経験を軸に移れる
- 実績は「課題・方法・結果」で言葉にする
- 転職しない選択肢=社内でDX部署に移る道も残しておく
まずは求人を眺めて、自分の経験がどのルートで評価されるかを確かめるところから始めてみてください。

